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機関紙「日赤労働者」

オーストラリアに視察と学習
ビクトリア州で学んだ比率法とノーリフト

比率法を導入して高レベルの医療を提供

森田 しのぶ

 2014年11月17日〜21日、日本医労連企画に、全日赤からは、森田しのぶ委員長(視察団長)と五十嵐真理子副委員長が参加しました。ANMF(オーストラリア看護師助産師連合)を訪問し、ビクトリア州の安全衛生分野でのいじめ・ハラスメント、腰痛対策と看護師対患者比率について懇談及び病院視察をおこないました。
 今回は、比率法と腰痛対策(ノーリフト)の報告をおこないます。詳しくは、月間医療労働1月号で報告していますので、ご参照ください。

比率法で看護を守る

 日本では、「社会保障改革推進法」、「医療・介護総合法」で、「医療費適正化計画」として、病棟・病床の再編・削減、看護体制の後退など国の基本方針のもとさらなる医療費抑制政策が推し進められようとしています。現場・地域では、慢性的な人手不足と超過密労働での疲弊と提供する地域医療の崩壊が進んでいます。
 今回、訪問したビクトリア州では、比率法制定以前(2000年以前)は、看護師不足のため病床閉鎖をおこなわざるを得ない状況があった。比率法制定後は、慢性的な看護師不足には陥らず、安心で安全できる医療を継続出来るようになったとのこと。応対頂いたのはリサ・フィッツパトリック氏(ANMFビクトリア支部書記長)でした。

比率法を定める理由

 ANMFビクトリア支部は71000人(看護師・助産師・助手・生徒など)を組織しています。なぜ、看護師・助産師対患者比率を定めるのか? @患者への安心医療提供、A新採用、看護師・助産師の雇用の継続&健全な職場環境、B経済的効率性のよさ、C医療現場での需要に対応するためとのこと。
 比率法導入前は、公的病院のフルタイム看護師が1300人不足し、400床病床閉鎖されていた。病院は、超過勤務やシフト時間の延長(16h、18h)、無資格看護師の採用、海外からの看護師を雇用するなどで対応を図っていた。2000年新政権に変わり、労働条件交渉キャンペーン「看護師体制、医療を健全なものへ」を実施。比率導入までには2年を費やしたとのこと。政府は、テレビ・新聞で「看護師さん戻って来てください。条件は以前より良くなっています」と宣伝をおこなう。

比率法の基準

 看護師対患者比率の基本は、20床に看護師5人、つまり、看護師1人に患者4人。オーストラリアの看護師は、日本の正看護師にあたるレジスタードナース(RN・3年間で資格取得)と准看護師にあたるエンロールドナース(EN・14ヶ月で資格取得)がいます。
 一部ではありますが、比率の実際は表の通りです。
 この比率には、アシスタント(助手)は含まれない。2011年政府は、比率法にアシスタントも含もうと考えましたが、ANMFは「自分たち看護師の仕事を尊重する」活動を主張して、9ヶ月かけてアシスタントを比率に含むのを阻止しました。
 ICU・透析・日帰り手術・外来・在宅治療分野では、比率がまだ確定されていないとのことでした。

比率法の利点

 比率法の利点として、6週間前に適切な看護師配置の勤務表作成・提示が出来る。患者に高いレベルの医療を提供出来る。看護師不足の際に高額な費用が発生する派遣業者を利用しなくてよい。慢性的な看護師不足に陥らず、安心・安全の医療を継続でき、職場で働き続けられる。医療サービスが増え、多くの人が治療を受けられる。などが挙げられました。
 自然に比率法ができたわけではないので、比率法を維持するよう常に要求・交渉をおこなっているとのことです。

おわりに

 ビクトリア州は、1850年代、ゴールドラッシュで急激に労働人口が増え、労働運動・社会運動が活発になり1856年に8時間労働制が実現したとのこと。
1800年代に建立された「労働会館」の見学で、「歴史から学ぶ事として、一度勝ちとったからといって永久ではないので、運動し続けなければならない」という言葉が非常に印象に残っています。また、提供する私たち労働者が、『健康で最高の状態でこそ、安全・安心の医療が提供できる』ことを基本に考え行動していることも学ばせていただきました。
現場では、なかなか人が増えない、実質賃金は下がるばかり、医療・社会保障の改悪などなど良いことがありませんが、諸先輩が運動してきた歴史があるので今の到達があると感じました。私たちは、運動しつづけ、後輩や未来の医療・介護従事者に運動のバトンを渡していかなければならないと強く感じた訪問でした。

ノーリフト実現で色んなリスク軽減

五十嵐 真理子

ノーリフトの取り組み

 ノーリフトは、1993年イギリスの国立腰痛対策委員会が医療分野において安全な患者対応のガイドラインに患者持ち上げ防止≠勧告し、1995年イギリスの看護学校でノーリフトが採用されました。
 1998年3月、ANMFビクトリア支部でノーリフトポリシーを採用し、1998年4月ノーリフトエクスポにて、オーストラリア厚生大臣によりノーリフトの採用が宣言されました。

ノーリフト(安全な患者の取り扱い)ガイドライン

 現在、ノーリフティングポリシーは「安全な患者の取り扱い」に名称が変更されています。重要なガイドラインとして「安全に患者を移動するためのガイドライン」と「そのために安全な設備を整えるガイドライン」の2つがあります。このガイドラインは雇用主に対するものでもありますし、同時に従業員が安全に業務を遂行できるようにするためのガイドラインでもあります。つまり両者が従わなければならないものです。ANMFはガイドラインがきちんとおこなわれているのかサポートしています。

職場でいきるノーリフト

 私たちは、メルボルン市内にあるロイヤルメディカルホスピタルのリハビリ室(ジム)と救急部門の見学をおこないました。ジムは、外来通院中の患者が利用するリハビリ室では、天井走行式のリフトがあり、患者の身長に合わせ平行棒が上下する仕組みを見学しました(残念ながら、リフトの充電が充分でなかったため稼働しているところは見られませんでした)。また、救急部門にもリフトがありました。救急部門の建物は古く、新しく建て替える時には、天井走行式のリフトにすると言っていました。なんとここにあるリフトの最大荷重は300キログラムだそうです(やはりオーストラリアの人は大きい)。

ポリシーが浸透した理由

 なぜ、オーストラリアでノーリフティングポリシーが浸透したのか。患者や患者家族の中には看護師に人力で運んで欲しいという方もいたそうですが、患者の安全性が保たれているという知識の共有してきたこと、特に看護師の中で腰痛が大きな問題となり認識されるようになりました。そして、雇用主や看護団体、組合、政府機関、大学とも共同で取り組み、制度としておこなわれるようキャンペーンをしました。特に労災保険を支払う公的な保険会社と綿密な情報交換をすることで、政府にも訴えやすくなったそうです。また、労災保険で支払われるコストが大きな問題となっており、ノーリフトを採用することで職員の休業や退職が減り職員が働き続けられることができることは施設にとってもメリットが大きいと言います。しかし、政府からの支援を受けることは簡単なことではなく、政府に対し職場設定ガイドラインや安全に患者を運ぶためのガイドラインをきちんと作るよう要請したり、ロビー活動や政策を受け入れてくれる候補者を当選させるための選挙運動をしたりなど、医療政策を良くしていくためには政治に積極的に関わることが重要だと感じました。
 またビクトリア州では、今では職業安全衛生(OHS)法があるので、全ての病院でノーリフトを採用しなければなりません。

ノーリフトの効果

 ノーリフトに取り組むことで、患者にとっては(1)痛みが少ない、(2)肌の締め付けやアザが減る、(3)転落のリスクが減る、があげられます。また、看護師の怪我のリスクが減り、休職や退職が減るので看護師が安定して働き続けられ、職員が申告する痛みや疲労の報告も減っています。

おわりに

 日本では看護師の腰痛は7割を超え、経験腰痛は8割にのぼり腰痛対策は緊急の課題です。世論を変え、政府から支援金を出させ、施設に器械を設置させることで、腰痛による休職や退職、労災補償金が減り、私たち看護師は働き続けることができ、施設も人材確保に奔走しなくてよくなり、地域の医療を安定して供給することができます。看護師の腰痛は自己責任ではありません。私たち看護師の意識を変え、変えていくことができる展望を持つことができました。

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